《MUMEI》

「ごめん…泣かないで」


「だ…ッ…てェ…」


「蝶…」


「可哀想に!」


夏樹さんが、ヨロヨロと立ち上がる俊彦を押し退けて、私を抱き締めた。


「…え?」


驚いて涙が止まりかけている私を、女性陣が取り囲んだ。


「大変だったのね」
「痩せたんじゃない?」
「頑張ったのね」


代わる代わる私を抱きしめたり、頭を撫でながら、優しい言葉をかけてくれる。

ようやく、涙が止まった私を確認し、安心した女性陣は、俊彦を睨みつけ、『最低!』と口を揃えた。


俊彦をかばいたくても、かばえない男性陣は、その様子をただ見つめていた。


私は慌てて俊彦に歩み寄り、俊彦を抱き締めた。


そして、今度こそ、私は俊彦に『ただいま』と言い…

俊彦は、『おかえり』と言って微笑んだ。


その時、優馬さんは、私を見て、『人々を操る魔性の殺人鬼』を思い付き


私をモデルにして、次回作を書きたいと言われたが…

私は、『絶対嫌です!』と言って断った。


優馬さんの小説はリアルな殺傷シーンに加え、激しい性的描写が特徴だったから。


商店街の皆はそんな私を見て、『ぴったりなのに、もったいない』と言って笑った。

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