《MUMEI》

居間ではジィさんが一人掛けのソファにいた。
俺は向かいのソファに座り、光達は各々床に腰を下ろした。

「俺のこと覚えてる?」

聞いてみた。

「……国雄……」

俺の知るジィさんよりはぼんやりとした印象だ。

「そう。俺だよ。」

「……違う……。恒光なんだろ?」

どうやらそっちの国雄だと認知されているようだ。

「そう見えるなら、そうなのかもしれない。」

否定してはいけない。

「まだ、恨んでいるんだ……。」

「恨んでいないよ。」

何故その必要があるのか分からない。

「殴ったとき、とどめを刺さなかった。
わざとだったろう。
苦しめたかったんだ。」

一瞬、ジィさんが若く見えた。

「殴ったのは突発的にで、何の因果も無かったよ。
俺はそのことでずっと謝りたかった。」

俺が悪かったんだ。

「今更、人格者ぶるのか?」

冷たい視線を向ける。

「本当に謝りたかった。殴ったのは、自分が弱かったからだ。ごめんなさい。
死んだらどうしようと思った。」

ジィさんに土下座した。

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