《MUMEI》
スゲー!
――小学生の頃よく親父が連れていってくれた銀座の料亭。
あそこも豪華で凄かった。
なんだか竹の子の皮みたいなやつで焼いた鰆の味噌漬けなんか未だに忘れられないし、個室に飾られている壷なんかめっちゃ高そうで傍に近づくのも怖かった覚えがある。
――しかし…
「スゲーよここ、政治家と業者が悪巧みに使いそうな匂いプンプンしてらあ!」
「――秀幸、えげつねー言い方止めようぜ?確かにそんな感じすっけどそれ言っちゃー惇にワリイだろ…」
――とにかく変に豪華!
離れのこの座敷にくるまでの間、長い廊下にいかにも高そうな生花、壷、絵が連なり、しかもこの離れ!
小さめな部屋ではあるけれど、ここだけの専用の庭まであって、そこの池に高そうな錦鯉までが放たれている。
座る事も忘れ俺はウロウロと見て周っていると、襖が開く音と同時に秀幸は奇声を上げた。
「ウヒャア!!」
「なんだよ!」
秀幸の傍に近寄るとそこには
「「――布団だ…」」
何か同時に言ってハモってしまう位衝撃的な光景…。
時代劇なんかで遊女と侍さんがエッチしてそうな、なんともノスタルジックな光景がそこにあった。
秀幸はノソノソと襖の向こうに行き、
「時代劇と一緒のセットみて〜」
と、多分『あんどん』って名前の置物を珍しそうに眺めだした。
「ゆうちゃん…、夜とお得意様しか使えねー理由分かった気がするぜ」
「――そうだね」
俺も秀幸の隣にしゃがみ込みそう答える。
すると秀幸は俺のケツを撫でまわしだした。
「――な〜、ゆうちゃ〜ん、折角だからヤってく?」
俺はバチンとその手をひっぱたく。
「バカか!さっき女将さんがいつもうちの息子がお世話になっておりますって深々と頭下げたの忘れたのか?
俺達惇のダチって事でここに入れたのに男二人で布団乱したら惇のお袋さん卒倒するだろ、つか惇の顔に泥を塗る!」
「――あ〜腹減ったな〜っと」
秀幸はムッとした俺からコソコソ離れ、テーブルについた。
わざとらしくお通しに箸をつけて
「美味い!これ美味いぞゆうちゃん!」
――と、まあ無理矢理空気を変えようとしているのがバレバレ。
俺も少しムキになっちゃったかなと反省しつつ立ち上がり、襖を閉じた。
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