《MUMEI》 一本目・親指お約束を、しましょうか アナタと私が交わす絶対的なお約束 破ったならばアナタの指を 私が斬って、落とします…… 「どうしてキミはお約束を破ったのかな?いけないんだよ、お約束は守らなきゃ。キミの指、斬られちゃうんだから」 初めて出会った時のその少女は、そんな事を言っていた 最近巷で噂されていた(指斬り魔) その現場に、偶然に出くわしてしまった伯 李桂は、突然に向けられた小刀に親指を斬り付けられてしまっていた 「……斬れて、ない。力、弱かったのかな。」 大量の血を流す李桂を目の前に 少女はさもつまらなさそうに唇を尖らせている 「随分と、物騒な遊びだな。お前、そんな事やってて楽しいか?」 痛みに顔を顰めながら問うてみれば だが相手からの返答はない 唯々、無感情な表情が向けられるだけ 「……おかしいな、おかしいな。どうして斬れてないんだろ。もっと沢山の指が要るのに。もっともっと集めないといけないのに」 一人で、意味不明な事を呟いて 少女はゆるりと踵を返すとその場を後にしていた 残された李桂 痛む親指に憎々しげに舌を打つと、家路へと就く為彼もまた踵を返していた 『たくさんの指が要るのに』 先程の少女の言葉がどうしてか頭から離れずに 背後を振り返り、少女が去って行った方を睨みつける 「……意味、わかんねぇよ。馬ー鹿」 短く吐き捨てると、李桂はまた前を見据え、 とにかく早く帰ってしまおうと 家路への足を速める 人通りの多い表通り その人の波を掻き分けながら唯足早に通り過ぎていく李桂 だか、その途中 服の裾が突然に引かれていた 「あいつに、指斬られたんだ。痛そ……」 聞こえる声に首だけを振り向かせてみれば その先に一人の少年が立っていた 「……次から次へと。俺に何か用か?」 心底うんざりといった様子の李桂に、だが少年は気に掛ける事もせず彼の腕を掴むと、斬りつけられた親指をまじまじと眺め見て 流れ落ちていく朱に、触れてくる 「……あいつ、(指斬り様)に憑かれてるんだよ」 朱い水滴を掌で受けながら、少年が徐に話す事を始めた 聞き慣れない(指斬り様)という言葉に李桂はつい怪訝な表情を顕に ソレは何なのかを、やはり問う 「指斬り様、知らないの?……ヒトって呑気なんだね」 まるで自分はその中に属して居ないかの様な客観的な物言い そんな少年に、李桂は不自然さばかりを抱いてしまう 「その言い方だと、テメェはヒトじゃねぇって事になんのか?」 「アンタには、関係ない。とにかく、まともに生きていたいなら、あいつには関わらない方がいいよ」 それだけを言い残し、少年は李桂へと背を向けていた 走り去るその背を引きとめる事はせず、李桂もまた家路へ 段々と痛みを増していく親指に舌を打ちながら、李桂は足早に、帰る道を急いだのだった…… 次へ |
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