《MUMEI》

吉沢さんが赴任してきてから一週間が経った…。



『百瀬さん。おはよう。』




『おはようございます。』




隣のデスクに“イケメン”が座ることにも結構慣れてきたな…。




吉沢さんはイケメンで、落ち着いてて、仕事が出来て、誰に対しても優しくて、さり気なくフォローの出来る完璧人間…




一週間で、事務所の女性全員の憧れになった…。




いやっ!パートのおばちゃん達ですら惚れる“王子様的存在”と言ったほうがいいかも…。




〜お昼休み〜



話題はもう決まってる…




『ちょっと百瀬!聞いてんの?』




『聞いてますってば!』




“吉沢さんに笑顔で話し掛けられたんでしょ…”




“もうその話は、3回聞いたってば…はぁ〜。”




『良かったですね…。』




お昼休みは社食で、ちゃきサンの“吉沢さんラブ話”を聞かされるのが日課になりつつある…。




私は真剣に聞いてみた。




『ねぇ…ちゃきサン。吉沢さんのこと本気で好きなんですか?』




『うん。』




“本気なんだ……。”




『…でも、吉沢さんには奥さんがいるんですよ。』




『うん。分かってるって。
私だって別に不倫したいとか言ってんじゃないよ。
たださ…私も今年で33歳になるのよ。
三十路過ぎるとさ…出会いどころかトキメクってことすら無いわけ…。
合コンなんて年じゃないし……。
かといって“いいなぁ”と思う人は決まって妻子持ち…。
吉沢さんは結婚してるっていっても25歳でしょ…。
年下のイケメンに“恋”するくらいイイじゃん!』




『…“恋”かぁ。
って、吉沢さん25歳なんですか!?』




『そうだよ。リサーチ済み。あっ!ってことは百瀬とタメじゃん。』




『…そうなりますね。私はてっきり年上だと思ってました。』




タメで、あの“仕事の出来”と“結婚済み”…。
“THE大人”じゃん…。




『まぁね〜25歳にしては仕事は出来るし、落ち着いてるわね。でもあの笑顔とルックスは母性本能くすぐる20代だわ〜。』




『…へぇ〜。』




『あっ。だから吉沢さんは百瀬にだけタメグチなんだ。な〜んだ。私ヤキモチ妬いて損した。』




『…ヤキモチって?』




『だってぇ〜デスクは隣で百瀬にだけタメグチだよ。吉沢さん百瀬狙いなのかと思ってヒヤヒヤしたんだって。』




『だ〜か〜ら。吉沢さんは結婚してますってば。
誰狙いとかあるわけないですよ。
そんな不純なことばっか考えて仕事してるのは、ちゃきサンだけです。』




『…そうかなぁ?』




そう言って、あっけらかんとしているちゃきサンが、私は少し羨ましかった。




私もこんな風に誰かを“好きだ”と堂々と言ってみたい。




“恋”をしたいって思った。

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