《MUMEI》

暫くするとタオルケットを纏った聖もまたノソノソと現れた。



そして音もなく俺の隣に座る。





お互いにうす黙ったまま重い空気が流れた。


――横を向かなくても分かる。
聖はうつ向いている。


―――しかし…もう泣いてはいない。


「――――怖かった…」

「――――」
「怖かったんだよ?」

俺は重い頭を上げ漸く聖の方を見た。


すると真っ直ぐに俺に向かう眼差しに、もろにぶつかった。

「―――分かる?
長沢に俺の気持ち分かる?」


まるで幼い子供に問う様に軟らかいはっきりとした口調で聖は言った。

「…………俺は…一体…――――――」

何故だか急に聖は真顔のままで

「――――― え?」


俺の頬に触れてきた。


「――涙、スッゲー出てる」

「――――な、――――――――涙……?」


そっと頬に触れると

「俺……、泣いてんのか?」

「は、訳分かんねーし…」


俺は両手を使って無我夢中で涙を拭う。
聖は呆れた色を含みながらそして、俺から視線を外し正面を見据えた。

「長沢ってさ…」

「―――――」
「俺に…

どうして欲しいの?」

「――――――聖が…――俺に……」

―――― 聖から…
俺に……。


「――普通さ、好きな相手の事…、そのなんだ、大切にしたいとか…
俺だったら思うし、
逆に好きな奴からは同じくらい好かれたいって願うと思うんだけど…―――――、
長沢はさ、そうじゃないみてーじゃん?」


―――ハンマーで…
おもいっきり殴られた様なショックだ…

俺は…
――一体今まで何をしていたんだろう?




一人でも多くダチがいないと不安で気の合わない奴にも話合わせて笑って…


姉の前では良い弟


親に対してはできた息子

塾では真面目な少年


学校では…優秀な生徒

――――やっと
…人を…
初めて好きになった子に対して…俺は…


適当に近寄る女を簡単に食い散らしてきた事の延長を…
好きな子に…俺は…

「―――ゴメン…、
俺………、ちっとも…佐伯の気持ち考えて…なかった…………」


「俺は、長沢の事猛烈にひっぱたきたい、
俺は、長沢が世界中で一番キライだ」



シャワー借りるからって言い残して佐伯は消えていった。


――浴室から聞こえる水の音。

それは激しい連続音でまるで俺との行為を綺麗さっぱり、根こそぎ落とそうといるかの様に…聞こえた。

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