《MUMEI》 額から汗が滲み出る猛暑。 雲が何処までも伸びて青々とした空が高く見えた。 あたしは畑から離れて水を飲みに歩く。 「もし……水を」 皴がれた声、最初は老人かと思ってしまった。 この真夏に目深に帽子を被り伸ばしっぱなしの不精髭に黒いロングコートを着込んだ不気味な風体。 背筋が伸びていて真っ直ぐ立っていることでこの人がまだあたしと変わらないと気付く。 余程喉が渇いていたのか、あたしが麦茶を持ってきたら大きな手で引ったくってぐびぐび音を立てて飲み干した。 「お代わり要ります?」 長い指が唇に乗った水滴を拭う。 「…………献身的」 グラスに注ぐと瞬く間に消えてゆく。 「はい?」 「旦那は?」 溜息をつきながら話した。 「はあ……、今は田んぼです……。」 一杯も飲まずに彼の口から無くなった。 「此処全部二人で?」 「両親と息子達と必要な時はでめんさんと……」 日雇いの仕事の人をでめんさんと言う。 「息子何人?」 「三人です。」 前へ |次へ |
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