《MUMEI》

「よし。じゃあ口止め料に、メシ食わしてやる。」

「え?」

私が返事をする前に、強引に手を引かれ、車まで連れていかれた。

先生の濃いグレーの車。

前に乗った時には、彼女がいつも座っているかもしれないこの助手席に、乗ることを躊躇ったが・・・

私は、今日聞いた洋介さんの話を思い出していた。先生は高校卒業してから今まで、隣に彼女がいたこと、ないってこと?

私はまだまだ子供だから、心が伴わない、恋愛など思いも寄らない。

「先生はいつもこの席に誰か乗せてるの?例の好きな人とか・・・」
かまをかけるつもりで聞いてみた。

「・・・なんで?」

「なんで?」という返事がくるとは思わず、次の言葉を探してあたふたしていると・・・
「俺、女と付き合えない病気だから。」


「え?」

私はびっくりしすぎて、運転中の先生の横顔をじっと見つめる。

「だってさっき病院で会っただろ?」

会ったけど・・・そんな病気なんて聞いたことない。
「だから、まあ普段乗るのは洋介とか・・・。」

「・・・さ、さっき洋介さんから、聞いちゃったんです。先生の過去。」

先生のその病気は、先生の過去に原因があるのではないかと思った。
先生は無表情なまま、あいつおしゃべりだな。と呟いた。

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