《MUMEI》

浴室を出、脱衣所に踏み入ると俺の腰の高さ程のチェストの上に、丁寧にたたまれた俺の衣類とバスタオルが置いてあった。

もそもそと着込み、バスタオルで髪をもう一度拭く。




何気なく洗面所の鏡を見つめる……。



――そこには疲れきった、赤い目をした俺が映っていた。





「―――タクシーお願いしたいんだけど」



髪をしつこく拭きながら俺はソファに座る長沢に言った。



するとうつ向いていた頭をゆっくり上げ、切なげに俺をじっと見つめてきた。



「―――――うん」


そしてまたうつ向いてしまう。



―――何なんだよ…、何か俺の方が―――
悪いみたいな気分になってきた。


酷く落ちつかない心を何とか沈ませたくて

「早く呼んで!あとビール貰うぞ!」



俺は早口にまくしたて勝手にカップボード脇の冷蔵庫をがっと開けた。

「――ゴメン、俺酒飲めないから置いてない」


「―――その様で…」



脇ポケットに牛乳しか入っていない冷蔵庫。

――本当に…マジで何もない。


俺専用の冷蔵庫だってマーガリンやマヨネーズ位いつも入っているのに。

「お前いっつも何食ってんの?」


「――ん、えっと…なんだろ?……考えつかない……」


「―――なんだよそりゃ…」



つか今日はまだ夜食ってないことに今更気がついた。
まあ…食欲ないからどうでもイイんだけど。

「佐伯腹減ったろ?、帰りにパン買ってきたんだけど」




長沢は立ち上がり、テーブルの上の紙袋を俺に渡してきた。
「ここの美味いんだ…、タクシー今頼むからさ、…食べて?」

俺と視線を合わることなく、うつ向いたままの長沢…。



俺は素直にそれを受け取りながら


「な、お前表情変えられんじゃん…」



「――――」



「無表情な奴かと思ったら…、色んな顔するんじゃん」



今にも泣きだしそうな長沢の顔。



ガタイはデかいのに何だか小さな小学生にさえ思えてきた。

「―――俺ってそんなに表情ない?」



「ないね、怖い位…つか普通に怖い」



「――――怖い…」
「今は…怖くないけど?、牛乳貰ってイイ?」

「――うん」



長沢は冷蔵庫から牛乳を出すと大きなグラスにそれを注ぎ、テーブルにそっと置いてくれた。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫