《MUMEI》
浴室を出、脱衣所に踏み入ると俺の腰の高さ程のチェストの上に、丁寧にたたまれた俺の衣類とバスタオルが置いてあった。
もそもそと着込み、バスタオルで髪をもう一度拭く。
何気なく洗面所の鏡を見つめる……。
――そこには疲れきった、赤い目をした俺が映っていた。
▽
「―――タクシーお願いしたいんだけど」
髪をしつこく拭きながら俺はソファに座る長沢に言った。
するとうつ向いていた頭をゆっくり上げ、切なげに俺をじっと見つめてきた。
「―――――うん」
そしてまたうつ向いてしまう。
―――何なんだよ…、何か俺の方が―――
悪いみたいな気分になってきた。
酷く落ちつかない心を何とか沈ませたくて
「早く呼んで!あとビール貰うぞ!」
俺は早口にまくしたて勝手にカップボード脇の冷蔵庫をがっと開けた。
「――ゴメン、俺酒飲めないから置いてない」
「―――その様で…」
脇ポケットに牛乳しか入っていない冷蔵庫。
――本当に…マジで何もない。
俺専用の冷蔵庫だってマーガリンやマヨネーズ位いつも入っているのに。
「お前いっつも何食ってんの?」
「――ん、えっと…なんだろ?……考えつかない……」
「―――なんだよそりゃ…」
つか今日はまだ夜食ってないことに今更気がついた。
まあ…食欲ないからどうでもイイんだけど。
「佐伯腹減ったろ?、帰りにパン買ってきたんだけど」
長沢は立ち上がり、テーブルの上の紙袋を俺に渡してきた。
「ここの美味いんだ…、タクシー今頼むからさ、…食べて?」
俺と視線を合わることなく、うつ向いたままの長沢…。
俺は素直にそれを受け取りながら
「な、お前表情変えられんじゃん…」
「――――」
「無表情な奴かと思ったら…、色んな顔するんじゃん」
今にも泣きだしそうな長沢の顔。
ガタイはデかいのに何だか小さな小学生にさえ思えてきた。
「―――俺ってそんなに表情ない?」
「ないね、怖い位…つか普通に怖い」
「――――怖い…」
「今は…怖くないけど?、牛乳貰ってイイ?」
「――うん」
長沢は冷蔵庫から牛乳を出すと大きなグラスにそれを注ぎ、テーブルにそっと置いてくれた。
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