《MUMEI》 歩みを止めることもできず、ましてや顔なんてまともに見えるはずなかった。口から落ちた言葉は随分と質素で、陳腐で、驚くほどダサかった。今更冗談だなんていうのも、許されないほどに。 それでも、俺の中には何の後悔もなかった。むしろ随分と身体が軽くなったような気さえした。 なんだ、俺無理してたんだ 伝えたくて、しかたなかったんだ 「好きでしたよ、お前が。銀二のことが」 先ほどよりも回るようになった舌で、もう一度言う。人生でそう何回も言わなかった台詞、耳朶に響く声は俺のものじゃないみたいだ 「好きだ」 肺に撓んでいた冷たい空気と、今までの鬱屈や、堪えに堪えた感情が、たった3文字になって、夜の空気にすべり落ちる。 隣から、反応はない。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |