《MUMEI》 『はぁ〜。なんで私が…。………はぁ〜。』 今日は、吉沢さんの歓迎会の日…。 部長に指名されて幹事をさせられてんのに、部長は急用で来られないって…。 おかげで私は1人で、居酒屋の手配・参加者集め・みんなの送り迎えまでするはめに…。 『かんぱーいっ!』 歓迎会が始まっても、私は会費集め・料理の注文・酔っぱらいの介抱と大変だった…。 “だから幹事なんてイヤなのよ。疲れたぁ〜。” 大部屋の隅の方でようやく座って、一息ついた。 みんなが楽しそうに飲んで騒いでいるのをボーッと見ていると、 『百瀬さん大丈夫?』 吉沢さんが話し掛けてきた。 『あっ。はい。大丈夫です。すいません。気を使わせてしまって…。』 『ううん。本当に大丈夫?ごめんね幹事なんて…。』 『いえ。本当に大丈夫ですから…。主役がこんなとこ居ちゃダメですよ。ほらっ。吉沢さんと飲みたいって、ちゃきサンが呼んでますよ〜。行った行った。』 吉沢さんは私に気を遣いながらも盛り上がる輪の中へ入っていった…。 数時間後…。 『ではっ。皆さん終電も無くなっちゃいますのでそろそろお開きでーす。』 ブーイングの中…私は酔ったみんなを駅まで送った。 『じゃっ…私は会社の車なんで会社に戻ります。皆さん気を付けて帰って下さいね。』 “ふぅ…。やっと帰れる。結局何も食べられなかったからお腹すいた。コンビニでお弁当買って帰ろ…。” そんなことを考えながら、車を出そうとした時、 『待って!』 私を呼び止めて、車の助手席に乗り込む人… 吉沢さんだ…。 『僕、会社に忘れ物しちゃって…。百瀬さんに乗せてってもらいます。皆さん、今日はありがとうございました。』 助手席から、みんなにそう叫ぶと吉沢さんは私に“車をだすように”目で合図した…。 私はそれに気付き、何も言わずにアクセルを踏んだ。 二人きりの車内…。 触れそうなほど近い距離…。 どうして車に乗ってきたのか? 本当に忘れ物をしたのか? それとも…。 私は結婚式の二次会で会った“慎吾クン”を思い出して急に怖くなった…。 そして…この胸の鼓動が吉沢さんに聞こえていないかが気になって、信号待ちを見計らって、チラッと助手席に目をやった。 よほど疲れていたのか…よほどお酒に弱いのか…吉沢さんは静かに寝息をたてて眠っていた。 “…なんだぁ。” 私の緊張と不安が一気に消えた…。 そして吉沢さんの寝顔を“いとおしい”と思った…。 それは私にとって、生まれて初めての感情だった…。 前へ |次へ |
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