《MUMEI》

黒い底は蠢いて、ロイの爪先を捕らえた。

「…くっ」

ロイの蹴り上げた足先には髪のように黒い錦糸状の生物が絡み付く。
粘度が臓腑を連想させた。

腰に携帯していた短刀で切り込んでも黒い物は細かく分散するだけですぐに繋がってしまう。
右足はズルズルと引き込まれて行く。

片手で全体重を支えることも限界がある。




ロイは諦めて手を離した。

黒い塊に呑まれて行く。

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