《MUMEI》

そんな私達のやりとりを見ていた麗子さんに、孝太は『遅れて来た方が良かったか?』と質問すると、麗子さんは『別に』と答えた。

「…で、『定番』はどこなんだ?」


「とりあえず、電車乗りましょ」


そう言って、麗子さんは孝太と腕を組んで歩き出した。


「蝶子蝶子!」


「…恥ずかしいから、いい」


私が待ち構えている俊彦と微妙な距離を保っていると、俊彦がギュッと手を握ってきた。


…いわゆる『カップルつなぎ』の状態に、指を絡めてくる。


「エヘッ」


「…」


嬉しそうな俊彦に対して、私はうつ向き加減で歩いた。


(恥ずかしいなぁ、もう…)

私は人前でベタベタするのに抵抗があった。


そんな私達の様子を見て、孝太と麗子さんは、『そっちの方が初デートみたい』と笑っていた。


「そっちはもう、付き合い長いように見えるけど?」

俊彦の言葉に、麗子さんは赤くなり、孝太は『馬鹿』と言った。


それから、電車に乗り、新幹線も停まる大きな駅に降りた私達は


映画を見て、ランチを食べて、ウィンドウショッピングをして、『定番デート』を楽しんだ。


(たまには、こういうのもいいな)

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