《MUMEI》

「ねぇ、どういう意味?」

ウキウキしている麗子さんと、微妙な表情の孝太と別れた後、私は俊彦に質問してみた。


「ん〜、俺が、蝶子にしてる事、麗子もしそうだから」


「?」


私は、首を傾げた。


「だからね。俺が、蝶子を俺色に染めてるみたいに、麗子も孝太を麗子色に染めようとしてるって事。

初めてってのは、真っ白で、…そういう、楽しみもあるんだよ。

春樹も克也も、それから、雅彦も、瞳と薫子と結子に染められちゃってるし。

そう考えると、商店街の女共は、皆中身は男前って事かな〜」


それから俊彦は、『あ、蝶子は別だよ』と言って、私にキスをしようとした。


しかし、その場所が、送ってもらった先…つまり、『クローバー』の前だったので、さすがに私は拒んだ。

「じゃあ、今度はどこでもキスできるように、染めてあげるね」


「おやすみ!」


とんでもない事を言う俊彦に私は叫んだ。


…何だか、『絶対ありえない』と言い切れない自分がいて、少し怖くなった。


(雅彦も、結子さん色に?)

あの体格のいい雅彦が、手先の器用な結子さん色に染まるとどうなるのか…この時、私には想像できなかった。

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