《MUMEI》

“男の人の寝顔、初めて見た…。”




吉沢さんって…すごくしっかりした人ってイメージで、なんかスキがない感じがしてたのに…
こんなに無防備な寝顔で眠っちゃうんだ…。




私は信号待ちの間、ずっと吉沢さんを見てた…。




プップゥー!!




後ろの車にクラクションを鳴らされ、私は信号が青に変わっていたことに気付いた…。慌ててアクセルを踏んだせいで車は急発進。




『…ん?何だ!?』




吉沢さんは飛び起きた。




『…すいません。
起こしちゃって…。私、ボーッとしてて後ろの車にクラクション鳴らされちゃいました。』




『…なんだ。そっか。
ってゴメン!俺寝てた?』




『…はい。完全に。』




『うわーっ。ゴメン。女の子に運転させといて寝るなんて俺サイテーだな…。』




『…いえ。そんなことをないですよ。どんどん寝てください。着いたら起こしますから。』




…とは言ったものの吉沢さんの返事はない。




“また寝ちゃったのかなぁ…。”
運転中で確認できない。





『…俺……』




“あっ!起きてた。”




『俺ね、今日歓迎会してもらってさ…幹事してる百瀬さん見て、すげぇ感謝したんだ。
こんなに気の使える人って滅多にいないなぁ〜って。職場でも思ってた。
俺たち以外、結構年上じゃん?
だから、考え方合わない時もあってさ…。
なのに百瀬さんは嫌な顔せず、うまくやってる。すげぇ尊敬するよ。』




『…そんな尊敬なんて。』




ぐるるるるるぅ〜




…………。




私のお腹が鳴った…。




“うわっ!恥ずかしい。
せっかく誉めてもらったのに台無しじゃん。
飲み会帰りにお腹が鳴るってどんだけ食いしん坊なんだよ!って感じだよね…。聞こえたかなぁ?
ってか聞こえたよね?
気まずぅ〜………。
どうしよう…。”




なんて考えてると、




『はははっ。
そりゃ腹減るよなぁ〜。
忙しくてなんも食べれなかったんでしょ?
今から一緒に、ラーメンでも食べに行かない?』




『…はい。』




ここは恥ずかしいので多くは語らず、吉沢さんとラーメンを食べに行くことにした。




(店員)
『ありがとうございました〜。』




私はお腹が空いていたのでもくもくと食べた。
店では、ほとんど会話は無い。
ラーメンも食べ終わり、店を出た時、私は言った。




『…ごちそうさまでした。あの〜すいません食事付き合ってもらったうえにご馳走までしてもらっちゃって…。』




『いいえ〜ってか俺もラーメン食いたかったし。』




『…すいません。』




『ねぇ。百瀬さん。
百瀬さんは“すいません”が多いよ。謝るのは悪いことをしたときだけ。
何かをしてもらったら“すいません”より“ありがとう”の方がいいと思うなぁ〜。』




『…あっ。そうですよね…すいま(せん)…じゃなくて……ありがとうございました。』




『あともう一つ。
俺達タメだし、敬語はやめない?
イヤなら俺もキチッと敬語使うけどさ…。』




『…イヤじゃないです。
ただ……。』




“男の人にタメグチなんて慣れてないから出来ないよ〜。ただでさえ話す時、緊張するのに…。”




『“…ただ”何?』




『…ただ、吉沢さん社内ですごい人気だし、私がタメグチで話したら女性陣を敵にまわしちゃいます…。』




『ははっ!大袈裟だなぁ〜百瀬さん。じゃ〜二人の時はタメグチ!ってことで、どう?』

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