《MUMEI》
――伊藤編
「明日ドラマの初顔合わせなんだろ?もう程々にしておけよ」
「あーだって気分いーんだもん、もうちょい飲む」



呆れ顔の佐伯を無視して俺は熱燗のおかわりを頼んだ。




――久し振りにあった親友の佐伯。
数ヶ月も恋人とパリに行ってやがって昨日帰国したばかりだ。



本人には口が裂けても言えねーがまた一段と綺麗になって現れた。
――男なのに…時々調子を狂わされる事がある。





「秀幸さ、奈津美さんと別れて何年経つんだ?」



「まだ10ヵ月だよ、何年なんて失礼な」


ぐいっとお猪口を煽りまた手酌酒。
佐伯は酌をする程俺を甘やかしてはくれない。


「俺は絶対結婚すると思ってたんだけどなーだって10年じゃきかなかっただろ?」

「――仕方ねーだろ…俺がやっとこ結婚意識しだした途端遅すぎるって出てっちまったんだからよ」


――長く同棲していた女がいた。仕事に夢中になりすぎて俺は結婚を後回しにしてしまった。


てかもうしているのと変わらない感覚になっていたしそんな俺に何も言わない彼女にすっかり甘えてしまっていた。



漸く指輪を渡した時には既に遅し…




俺に内緒で田舎で見合いをし既に結婚を決めてしまっていた。



情けなくも泣いてすがったが回し蹴り一発くらわされ

「アバよ」

と若くない年齢まるだしな台詞と共に出ていかれてしまった。




―――よくよく考えてみると彼女の荷物が日々少しづつ減ってきていた。



気分転換で一気に買い替えるのか?位にしか思わなくて一言も俺は確認しなかった。

まあ今思えばお互い会話らしい会話ここ数年なかった。
どっちにせよ結婚したとしても俺達は長く続かなかったのかもしれねえ……。




「――秀幸、そろそろ恋人欲しいんじゃないの?」


「まあな、そろそろ人肌恋しいかな」



「――抱かしてやろうか?」


「いらねーよ、気色ワリイ」

「ハハッ…、女優で気になんのいねーのか?お前イケメンじゃねーけど一人位何とかなんねーのか?」

「…あんなあ、まあいーけどよ…」



どうせ俺はイケメンじゃねーよ、クソッ!


「明日の顔合わせで可愛い子いたら口説いてみれば?若い子じゃ案外早い者勝ちかもよ?」


「バカか…、俺の年齢で若いネーチャンが相手にしてくれる訳ねーだろ、てか今時の子は俺らの頃よか遊びにたけてて早い者勝ちもなんもねーよ」

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