《MUMEI》

「なんかさぁ、」
「ん?」
「不安がってたのが馬鹿みたいだわ」

今まで黙っていたことを責めたっていいはずなのに、へへ、と照れくさそうに笑う顔は相変わらず軽い雰囲気で俺を許した。
幸せと言うには微小だが、これ以上の幸福はないように思えた。

「最初からちゃんと話せばよかった」
「そうだな」
「俺も、なおひろもね」
「そう、だな」

本当に、そうだ。
一人で凝り固まって、感情を押し殺して、勝手な結論を下したところで、そこに描く正常と信じこんだだけの青写真には、結局のところ二人がいるのだから。
感情も、用意した結論も、その延長線上には、もう片方の感情と結論を持った人間がいるのだ。
それが異性であろうと同性であろうと。

それが、恋、なんだ。

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