《MUMEI》

葬儀の前日、

行方の分からなかった父が同市内で発見された。

オレはその時、実家で荷物を整理していた。


今でも忘れない。


いや、忘れる様な事柄は何1つとしてない。

この、現実を引き裂かれた事実の全てをオレは忘れない。


絶対的な絶望感が漂い、
一筋の幸福と一握りの思い出に寄り添った日々。

痛みを忘れる事は、母を忘れるのと同じ。


だから忘れるわけにはいかないのだ。


父の話しは叔父からの電話で知った。

その後、直ぐに叔母からも電話があった。

翌日は母の葬儀が控えている。

警察側は、葬儀場の警戒も考えていたに違いない。


テレビでは、一連の報道速報が出ていたらしい。

自分の家族がテレビや新聞で取り上げられる。

テレビでは実家の映像が。
新聞では母の写真が。



これが、オレ達の身に現実に起きた事。


運命とは、一瞬で激変する。


昨日までの人生が容易く崩れてゆく。


この身が全霊で感じとった運命は、
世界の終わりに似た匂いがした。


生き抜く事こそ、
己に課せられた重圧であり運命。


あの日、

父が母の葬儀の前日に発見されたのも、運命なのだ。

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