《MUMEI》

今日のこの日が滞りなく終わろとしている。

この日を迎えるまで、

何十年も掛けた様な濃密な時間を過ごした。

朝も夜もなく心を支配する陰。


動けない体を無理矢理働かせ、

何とかデタラメに努力だけをしてきた。


皆に支えられながら、


負の陰に呑み込まれない努力を。

憔悴しきった遺族達の顔が目に止まる。


無言のまま目をふせる。


簡単な食事を済まし、

明日も母の為に宜しくお願いしますと、一堂に挨拶を交わす。


何ヵ月か前には、父が祖父の葬儀の際に同じ様に挨拶をしていた。


会場を取り巻く激情の渦が消え去り、残っているのは冬の寒さだけ。


オレは祖父に貰った喪服の上にコートを羽織る。



また明日来るから、と


母の前で立ちつくした。


限りない時間を過ごしてきた、


最愛の人の前、


限りなく無力なオレは

立ちつくすだけで精一杯だった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫