《MUMEI》 外の空気は冷たく、 体内に入れるには荒々しい程に清々しかった。 叔父達と玄関ホールで別れ、オレはアパートに帰る事にした。 この葬儀場から歩いてすぐの場所に、オレは1人暮らしをしていた。 全てを知ったあの日の昼間のまま、 オレの部屋は時間が止まっているのであろうか。 あの日の事は生々しく思いだす。 瞬間的な絶望を何度でも掘り返す事が出来る。 オレにとって押してはならないスイッチ。 それでも、帰りたい。 オレには永すぎた。 破裂寸前の頭がぐらつき、精神はバランスを失いかけている。 病の兄が不安にならない様に気丈に振る舞ってきた体が、 そろそろ綻び始めてきている。 擦り傷の様に、ザラついた魂が 外の空気に触れ溶けだす。 駐車場には、 悲しみと羨望を乗せた車が 1台、1台と消えて行く。 それぞれの家路に向かって。 オレはまた、 1人になる前に足早に駐車場から離れる。 外の空気は容赦なく冷たい。 それでも、 今は それも悪くないと思う自分がいた。 前へ |次へ |
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