《MUMEI》

…えっ?
二人の時はタメグチって、どういうつもりなんだろ?



って…私の考えすぎかなぁ…。




『…分かりました。じゃ〜タメグチで…。』




『よしっ。決まり!』




そう言って、吉沢さんはニコッと笑った。




…なんか私、本当に吉沢さんに“恋”しそう…。




ふっとそんな事を思った。




プルルルルルルゥ〜




吉沢さんの携帯が鳴る。




『もしもし?あぁ〜俺。
……うん。
……うん。
あぁ〜もうすぐ帰るから。
…ん?いや。先寝ててイイよ。おぉ〜分かった。』




吉沢さんの携帯からは、女性の声が、かすかに聞こえてきた。




『ごめんね。百瀬さん。
今の嫁からだったんだ。
仕事だって言ってんのに、嫁は心配性だから困っちゃうよ。本当に。』




…やっぱり奥さんだったんだ。




…そりゃ心配だよね。
吉沢さんカッコいいもん。私が奥さんでも心配だよ…。




『…そうですか。』




『こらこらっ。さっきタメグチで話すって決めたのにもう忘れたの?』




『…あっ!つい……。』




『まぁ徐々にで、いいけどね。』




『…うん。』




それから会社に帰る車内…吉沢さんとは色んな話をした。




一人暮らしなのか?
彼氏はいるのか?
と結構、質問攻めだったけど全然イヤではなかった。




好きな音楽や映画など意外にも好みが似ていて、共通点の多さに、私は驚いたんだ。




“あ〜ぁ…この角を曲がったら会社に着いちゃう…。まだ、吉沢さんと話したいなぁ…。”




そんな風に思った…。




『…着いたよ。』




私はまだ、ぎこちないタメグチで吉沢さんに話し掛けた。




『あ〜本当だ!
楽しくてアッという間だったよ。ありがとう。
じゃ〜会社に車を置いて帰ろうか?
タクシーひろうよ。』




そう言って吉沢さんは大通りまで走って行った。




タクシーに乗り換え、吉沢さんは遠回りして、私の家まで送ってくれる。




『…ここ。ありがとう。』




私のマンションの前にタクシーが止まる。




『うん。じゃ〜百瀬さん。また明日、会社で。』




当たり前だけど、吉沢さんはタクシーから降りない。




…私はどうかしてたのかなぁ。




次に私の口から出てきた言葉に、一番驚いたのは私自身だった。




『…吉沢さん。
家にあがってきませんか?……コーヒーでも。』




“えぇ〜!マジ?
私、今、誘ってる?男の人を自分の家に…?
………。
ヤダヤダ。嘘だ…。しかもコーヒーでも…ってあり得ない!!”




まさか、自分がこんなに積極的だったなんて驚いた。




…そして、勢いで誘ってみたものの吉沢さんが家に来たらどうしよう…という不安が押し寄せてきた。

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