《MUMEI》

「ジィさんが国雄だったんだな?」

顔に火傷を負った国雄……。それは恒明だったのだ。

「……あれは俺の成れの果てだ。」

ジィさんが遠い目をする。

「吸う?メンソールだけども。」

小さな頃外でジィさんはよく吸っていた。
青空に映えた煙が彼の存在を際立たせて……、確か俺が吸いたくなったきっかけだった。

「……一丁前な口きくようになって。」

ジィさんの行き届く指先の動作が恐ろしく恰好良い。

「火事、ジィさんが起こしたんだろう?」

国雄が起こしたという火事、そして火傷。


「…………炎になる前の火が好きだった。」

微光する煙草が様になっている。

「二人が入れ代わったのと関連性が分からない。」

「些細な事だ。
恒明が優秀で国雄が畜生。

二人、悪事を働いても片方に全て偏るようにした。
両方出来ても両方不出来でもつまらないからだ。
どちらかが国雄として責められれば恒明が庇う、そういう仕組みだった。」

ジィさんは国雄で、悪い方を引き受けていたのか。

「互いの悪事を引き受けた代償は?」

「兄達は体が弱かったからこちらにお鉢が回った、出来が悪い息子は跡取りから自動的に外れる。」

つまり自由と引き換えだったと。

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