《MUMEI》
長沢視点
――鏡の中の俺…。




『貢って笑っても眼だけは笑ってないし怒っても眼は怒これてないよね』





――と、良く女に言われている。





そうなのかなって位であまり深く考えた事がなかった。





クラスでも仲良くなった奴に言われた事もあるが、まあ…気にしてはいなかった。

いやそれ以前にその事は小さい頃から良く言われ続けてきた。

――…そのおかげで俺は…俺だってイヤな想いをしてきたんだ。

――深く考えた事ない…訂正。




考えない様にしてきた。







いつも意識して笑ったり真剣な表情作ったり。




そう、本当は眼だけじゃなく表情も意識しないと作れないんだ。


心の中から嬉しかったり悲しかったりしてもそれが上手く顔に出てくれない。
顔の表情は練習して何とかなったが眼だけは…どうにもならなかった。





――佐伯に怖いって言われた。





―――聖に…





―聖ちゃんに…





でも今は怖くないって……言ってくれた。



――今の俺の顔…
意識しなくても…





めちゃめちゃ辛い表情している。




眼なんか捨てられた犬みたいだ……。






意識しなくても…



―――聖ちゃんが俺をかえてくれた…?


――――聖ちゃん。
「ニャア〜」



「…ハルカ、お前聖ちゃんに名前つけて貰って良かったなあ」

俺の膝で丸まりゴロゴロと喉を鳴らす子猫。
俺は心から愛しく感じながら背中を撫でる。

ハムを届けに行ったら玄関で真っ先に俺を出迎えてくれた子猫。
キョトンとした表情があまりにも聖ちゃんと重なって気がつくとそいつを抱き上げていた。

『そんなに好きなら連れて行きなさい』
笑いながら姉さんの義父さんにそう言われ

『貢君は余程ネコが好きなんだね、表情ににじみ出てるよ?』

…と、とても優しい笑顔で…言われたんだ。

――まだ…3日前に貰ったばかりの子猫だったらしい。

『この子も貢君が好きみたいだ、私達といるより好きな人に飼われている方がこの子も幸せだろうし…、それに貢君の方が私達よりこの子を好きなようだしね?』




俺はこの子猫を迷わず連れ帰ってしまった。

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