《MUMEI》 (殺さないで……!お願い、私を殺さないで!何でもする、アナタの言うこと何でも聞くから!) 目の前が唐突に朱に染まっていた 夢、現実 見える景色は随分と朧気なソレで その挟間に李桂の意識は何故かあった 視界一面に広がる朱 その中に一つ、墓石が建っている事に気が付いて 近づいて、見てみれば そこにある花受けには何かが大量に活けられていた 見えるそれはヒトの指 本来ならば美しい彩りの花が活けられるべき場所に 到底似つかわしくない大量の指が無造作に押し込められている 見るに、異様すぎる光景 好んで見ていたいと思うハズのないソレに背を向けて その場を去ろうとした、その直後 衣服の裾が不意に引かれた (もっと、指がいるの。もっともっと沢山の指が要る。私が[指斬り様]に許して貰う為に、もっともっと沢山の指が……) 向きなおった先には山のように積み上げられた無数の指 その中に埋もれる様に横たわる、昨日の少女の姿があった (指斬り様は私が嫌いなの。私が[お約束]を守らなかったから。だから……) 言い掛けて途中、少女の姿は突然に消える それと同時に己へと戻って来る意識 何気なく時計の方を見やれば、時刻はまだ夜も明けかけの早朝だ 「指斬り様、ね」 誰に言うわけでなく一人呟いて 李桂はゆるりと寝床から身を起こした ひどく乾いている喉を潤そうと流しへと向かう 流れ落ちていく水 何をするでもなく唯それを眺め見ていた 「兄貴、何やってんの?」 微かに戸の開く音が鳴り、そちらへと向き直ってみれば 呆れ顔をした妹・華月の姿が 溜息をつきながら歩み寄り、李桂の背後から手を伸ばし水を止める そしてそのまま、華月は己が額を李桂の背へと押しつけて 妹のとる珍しい行動に、どうしたのかを問うていた 「……兄貴さ、指斬り様って知ってる?」 華月からの言葉に、李桂は僅かに驚いた表情をして返す まさか身近な人物からその名を聞く事になろとうとは思ってなかった為、その驚きは相当なモノだった 「お前、その名前何処で聞いた?」 だが努めて冷静に問うて返せば 華月は俄かに表情を強張らせ、そして話始めた 「兄貴、実家の近所に(指塚)ってあったの、知ってる?」 「指塚?もしかして竹林の中に建ってたあの石の事か?」 思い当たるソレを言ってみれば どうやら正解だったらしく華月が頷く 一体それがどうしたと言うのか 訝しむ表情がつい面の皮に出てしまっていた 「で?それがどうした?」 話の続きを促してやれば 華月はゆっくりと話す事をまた始める 「そこに祀られているのが指斬り様で、最近そこに大量の指が供えられる様になったの」 「大量の指?」 「そ。明らかに刃物みたいなモノで斬られた人の指が大量に。ね、不気味でしょ?」 若干青ざめた顔で語る華月 その話に若干思い当たる節がある李桂は、深々と溜息をついていた 「……行って、みるか」 一言呟き、大儀気に腰を上げる 着替えも適当に済ませると、妹を自宅に一人放り置き、李桂は草履を引っ掛け外へ 向かう先はその指塚がある竹林だ 手荒く竹を蹴り倒しながら奥へと進んで行けば その通り一つだけ、ひっそりと塚が建っていた 周りには大量に斬られた指が供えられていて 竹の香りに混じる血の臭いが不愉快で堪らない 「今日和。いいお天気ですね」 何をするでもなく立ち尽くす李桂の背後 突然に人の気配があった ゆるりと振り返って見れば、そこに居たのは一人の女性で 目の前の様に顔色一つ変える事をせず笑みすら浮かべて向ける 「あら、今日もこんなに指が供えられている。最近ずっとね」 塚の周りに散らばる指を一本ずつ丁寧に拾い上げながら その女性はやはり穏やかに笑ったままだ 「……一つ、お聞きしてもいいかしら」 視線は塚へと向けたまま 女性が徐に李桂へと声を向ける 何だと短く返せば 女性は李桂の目の前へとわざわざ立ち位置を変え 「あなたにとって、(指切り)って何?」 との問い掛け 行き成り過ぎて李桂は瞬間茫然としてしまう 「答えて下さい。私に、答えを」 両の手一杯になった指を李桂へ 脚元へと落とされるソレは突然に動く事を始めていた 前へ |次へ |
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