《MUMEI》

俊彦は、『シューズクラブ』でよく着ている白いスーツに、ピンクのバラの花束を持っていた。


「これ、俺の勝負服だし。
この花は、よく蝶子のお父さんが買ってたって春樹に教えてもらった」


(そういえば、そうだっけ)

確かに父は毎年母の写真の前にこの花を添えていた。

「蝶子は買わないの?」


「だって、いつもお寺の近くの駅で買ってたから」


「今日は涼しいから、ここからでも大丈夫だよ。

荷物も少ないしね」


(そっか…)


私は毎年真夏に墓参りをしていたし、去年は実家に帰省するから、旅行バックを持っていた。


そして私は、『フラワーショップローザ』でピンクのカーネーションを中心にした花束を夏樹さんに作ってもらった。


「蝶子のピンク好きはお母さん似なのかもね」


そう言って笑う俊彦と一緒に私は電車に乗った。


「ねぇ、蝶子のお母さんってどんな人?」


新幹線の指定席に座ると、俊彦が質問してきた。


「どんな?」


「? うん。だから、優しいとか綺麗とか…」


俊彦は笑顔で私の言葉を待っていた。


「色白で、髪質と、唇は、私に似てて…」


「それで、洋楽好きなんだよね」

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