《MUMEI》

俊彦の言葉に、私は頷いた。


「あと、しっかりしてて、料理も好きな人だったみたい」


「…『みたい』?」


俊彦が不思議そうな顔をした。


(どうして?)


私も不思議だった。


私が語った母の人物像の中で、私がきちんと覚えていたのは、『洋楽好き』という事だけだった。


後は、父と光二おじさんと祖母から聞いた話だった。

「きっと、小さかったからよく覚えてないだけだよ」

不安げな私を俊彦は優しく抱き寄せた。


「う…ん」


「…交通事故だっけ?」


「…みたい」


(また、『みたい』だ)


普通は、母親の亡くなった記憶はもっと鮮明なのではないだろうか。


「辛くて、悲しくて、忘れちゃう事だって…あるんだよ?

大丈夫」


俊彦は、そう言ってくれたが…


私は不安だった。


私は、その時初めて自分が…


母の亡くなった時の事も


お葬式の様子も覚えていない事に気が付いた。


(普通、…忘れないわよね)

私は、記憶力は良い方だ。

俊彦は、そんな私の肩を人目も気にせず抱いていた。

やがて、新幹線は終点ー東京に着いた。


「蝶子? 次、何番線?」


「あ、こっち…」

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