《MUMEI》

「誕生日が近いから、買ってもらえば?」

私はちらりと百花の顔を見た。親に?それとも先生に?・・・『誰に』と言わないところが、百花らしかった。

あいまいに頷き、その場をあしらった。


「あれ・・・?」

ふと、道を挟んだ反対側に目をやると、どこかで見覚えのある顔だった。

「どうしたの?」

私の目線を百花がたどる。
「もしかして、成原さんかな?」

『もしかして』とつけたのは、成原さんのイメージがあまりにもいつもと違うからだ。眼鏡もみつあみもない。私服姿もなんだか違和感があった。

百花は私の問い掛けが聞こえていないかのように、成原さんを険しい顔で見つめている。

「百花?」
「・・・蓮見先輩だ。」

蓮見・・・?学校の卒業生なのだろうか?

「誰?」

百花は小声で耳打ちした。

「すごく悪くて有名な先輩・・・。卒業して、裏の道に入ったって。」

私は成原さんの隣にいる、蓮見という人をじっと見た。チンピラみたいなスーツに、サングラスをかけているが、まだ『若いな』というのが分かる。

成原さんはその人と何を話しているのだろう・・・。
「奏・・・帰ろう。私たちじゃどうしようもないよ。下手に関わらない方がいいよ。」

百花の言葉に頷き、その場を去った。

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