《MUMEI》 「でもね、姉さん。やっぱり…時々、駄目なんだ。 蝶子ちゃんは姉さんと違う。 俺、蝶子ちゃんを姉さんの身代わりにって思ってた時期もあったけど、やっぱり駄目だった。 だから、『いいおじさん』でいたいのに… …」 「光二、おじさん?」 様子がおかしい。 「行こう、蝶子」 「でも…」 俊彦が、迷う私を引っ張った。 その時、うつ向いていた光二おじさんが、奇妙な質問をした。 「蝶子ちゃん、覚えてる?」 「え?」 「君は、時々熱を出す子供だったね。 …そして、あの日は雨だった」 ポツリと呟いた光二おじさんの言葉に反応するように、雨が降ってきた。 「急ごう!」 「う、うん…」 私は、俊彦に急かされ、待機しているタクシーに向かった。 光二おじさんは、折りたたみ傘を出しながら、『またね』と言って…笑った。 「孝太や蝶子から聞いていたけど…気味の悪い男だな」 タクシーの中で、俊彦は私を抱きしめながら呟いた。 私は、光二おじさんの言葉を思い出すと、何故か体の震えが止まらなくて、俊彦にしがみついていた。 前へ |次へ |
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