《MUMEI》

いつの間にか都合が悪くなれば〈国雄〉から〈恒光〉という交換が主流になっていた。

そこで痛感することは恒光の〈恒光〉を抜かせないということだ。
彼は優秀だった。

それに比例して〈国雄〉の素行は本人よりも悪かった。


「……〈恒光〉に代わって。」

恒光がそう言うのは決まって彼がしつこいのに絡まれているときだ。

国雄にとって恒光の事情は知らない個人的な部分である。
だから〈国雄〉のときはあくまで管轄外で自分の生活を守り、狂わせない。

知らない人間がやって来て断る他ない。

その第三者目線の断裁は恒光に好評で、都合が悪くなると〈国雄〉に戻された。

天才なりの葛藤があってのことなのだろうと許容していた。
苦手な科目や面倒な試験は恒光が引き受けてくれていたということも含め。

ある時、天才の倒錯振りをしらしめられた。




「僕を好きだと言ってくれた。」

女達と同じ獣みたいな眼をした正真正銘の男だった。
なんだか、恒明の行動に笑いが止まらなくなってしまった。

あの鬼才が野郎に好かれて好かれて困り果てた揚げ句に兄に泣き付いてくるのだから。

「口や体は勝手に動くものだよ、君はそんなまやかしを信じてしまった憐れな人間だった。
その証拠に金輪際関係を断ち切ろうじゃないか。
君以外に何人も口も体も嘘をついたよ、きっとまた君のような憐れな人間にこうして話さなければならないだろうね。」


右頬が痺れた。

「あんたが憐れなんだよ!」

女々しい奴だ。
もっと女のがヒステリックに喚いて暴れる。

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