《MUMEI》
時ニ馨シイ
「坊ちゃん、坊ちゃん。」

慌ただしく実朝が駆けて来た。

「はい、居ります。」

俺を見るや否や分厚い眼鏡を掛けられた。

「此れ、絶対に外さないように。」

人に指を指すな……と、兼松〈様〉が見たら怒気を荒らげるだろう。無茶苦茶して呉れたものだ。

眼鏡は伊達だったが安物の硝子で歪みがある。
鼻は重いし、視力が良い分邪魔な飾り付けだ。

所謂、変装である。
自身も本家の執事や下男の仕種を見習うつもりだ、誰が進んでこちらから素性を明かそうか。

「はい、実朝〈様〉」

大人しくしておく。

「悪意が篭った返答だ。」

此の男には云われたくなかった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫