《MUMEI》

俊彦は『だってさ』と言って話を続けた。


「あの『蝶子ちゃんラブ』なお義父さんが、蝶子がそんなに熱ばかり出すのに、転勤を繰り返すなんて、おかしいし。

父子家庭になったからって、転勤減らしてくれる会社なら、『娘が病弱だから』って理由でも転勤減らしてくれそうだし」


「それは、そうかも…。
でも、光二おじさんが嘘つく理由なんて…」


「案外昔の蝶子はあのおじさんの前では熱出したのかもよ?」


「そう…かな?」


「そうだよ! はい、これにて一件落着!
グラス持って!」


私はまだ納得できなかったが、俊彦の勢いに負けてグラスを持った。


「はい、乾杯!」


グラスが重なり、綺麗な音が響いた。


「美味しいよ。…日本酒じゃないから、蝶子も飲めるでしょ?」


私は頷いて、シャンパンを一口飲んでみた。


「…美味しい」


「でしょ!さ、適当に食べながら、のんびりしようよ!」


「うん…ありがと」


私達はそれから、俊彦の言うように、ゆったりとした時間を過ごした。


そして、私達は別々にシャワーを浴びた。


「本当は、…したいけど、今日は、元気が出るおまじないだけにするね」

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