《MUMEI》

そう言って、俊彦がドラッグストアの袋から取り出したのは、ラメ入りのオレンジ色のネイルと、白い蝶のネイルシールだった。


俊彦は、ベッドに座る私の前にひざまずくと、私の足に優しく触れた。


そして、一本一本の足の爪に、丁寧に、ペディキュアを塗り、一つの爪に一匹ずつ蝶のシールを貼っていく。


「火曜日までまだあるから、これを見て、元気出すんだよ?」


「蝶…取れちゃうかも」


繊細な白い蝶のシールは、気をつけないとはがれてしまいそうで、私は不安になった。


「不安と一緒に飛んでいったと思えばいいよ」


細かい作業も余裕でこなしながら、俊彦が言った。


「…じゃあ、そのまま残ってたら?」


「蝶子が心配だから、飛んでいけなかった事にすればいい」


俊彦は、それから『はい、終わり』と満足げに言った。


「調子良すぎない?」


「『蝶』だからね」


「何それ」


私がクスリと笑うと、私を見上げている俊彦もつられて笑った。


「じゃあ、今日はエロエロ無しで、…寝ようか」


俊彦は、立ち上がり、ベッドにゴロンと横になった。

私も隣に並んで、横になった。


「「おやすみ」」

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