《MUMEI》 「避けられなかったの?」 「星空に見とれててさ…」 薫子さんの質問に、克也さんは苦笑しながら答えていた。 『脇見運転だったらしいよ』 「俊彦…大丈夫?」 「あぁ、大丈夫」 私の質問に、俊彦は笑顔で答え… 『蝶子が心配だったから』と付け加えた。 『娘さんが心配で、慌ててたらしいわよ』 … (…思い、出した…) 「蝶子? 俺なら大丈夫だよ? …泣かないで」 無言で涙を流す私を見て、俊彦が困っていた。 周りは『蝶子は優しい』と言っていた。 (違う…) 言葉にならない私は、ただポロポロと涙を流し続けた。 「蝶子…ちゃん」 「…」 私は父を見れなかった。 父は、私の涙の本当の理由を知っていた。 (ごめん…なさい) そして、私は走り出した。 下駄ではうまく走れなくて、私は一度転んでしまった。 それから、私は裸足でまた走った。 おそらく、父以外は私の行動は予測できなかっただろうから、誰も私を追いかけて来なかった。 そして、理由を知る父も追いかけては来なかった。 私の足は自然といつもの… あの、小さな公園へと向かっていた。 前へ |次へ |
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