《MUMEI》
償い
「やぁ、…こんばんは。蝶子ちゃん」


私を待っていたかのように、その人物はゆっくりとベンチから立ち上がった。


「誕生日おめでとう。…思い出したみたいだね」


私の様子を見たその人物ー光二おじさんは、改めて、辛い現実を私につきつけた。


「君のせいで、姉さんが死んだ事に」


(そうだ…)


保育園に預けられていた私は、あの日熱を出した。


母は、転勤族の妻にしては珍しく、専業主婦ではなく、行く先々でバイトをするような活発な女性だった。

バイト先から保育園までは近かったが、途中、見通しの悪い交差点が一つあった。


その日は雨で、視界も悪かった。


私を心配して急いだ母は、そこで事故にあったのだ。

私がよく覚えていなかったのは、数日間高熱にうなされていたからだった。


そして、回復した私が、『母さんは?』と質問すると…


父は、『お母さんは…お星さまになったんだ』と答えたのだ。


「蝶子ちゃんは、あいつの下手な言い訳には納得してなかったみたいだけど…
急にいなくなった姉さんの存在をどう受け止めていいかわからなくて、結局、曖昧なまま、この商店街にやってきたんだ。
そして、…忘れた」

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