《MUMEI》

『百瀬さん。おはよう。』




朝早い事務所。
一番乗りだと思って出勤したのに、私のデスクの隣にはビシッとスーツを着た吉沢さんが座っていた…。




“…吉沢さん?
昨日は歓迎会で遅くまで飲んでたのに、何でこんなに早く出勤してんの?”




そんなことを考えてたら、私は吉沢さんを完全にシカトしてしまった…。




『…百瀬さん?どうしたの?』




『…いえ。別に。』




“いや〜!二人とか気まずいよ…。誰か早く来て!”



『…そう?ならいいけど。そうだ!昨日は歓迎会ありがとうね。百瀬さんのお陰で楽しかったよ。』




『…いえ。こちらこそ。
(ラーメン)ごちそうさまでした…。』




“…うっ。緊張する…。”




『…ねぇ?百瀬さん。』




と言って吉沢さんはグッと顔を近付けてきた…。




『なっ!?何ですか!?』




私が驚いて大声を出すと、




『あっ!ごめん。
百瀬さん、顔色悪いなぁ〜と思って体調不良なのかと…。
でも、そんな大声出るなら大丈夫だね(笑)。』




と言って、笑っていた吉沢さんだったけど、その後はやっぱり微妙な空気が続いた…。




私はこの微妙な空気に耐えきれず、気になっていた事を吉沢さんに聞いてみた。




『…あの〜。昨日のことなんですけど、どうして歓迎会の帰りに私の車に乗ってきたんですか?
みんなは、あのまま帰ったのに…。』




『あっ!もしかして勝手に乗って怒ってる?』




『そんなっ!怒るなんて…とんでもないです。
ただ…何でかなぁと思って…。』




“ヤバイ。言い方悪かったかな〜?”




少しうつむいた吉沢さんの表情が気になった…。




『あ〜。勝手にゴメンね。あの時、百瀬さん何も食べてなかったし、疲れただろうから1人で運転は危ないかなぁ〜って。
俺、酒飲んじゃったし、せめて助手席で話し相手くらい出来るかと思ってさ。』




うつむいたまま、少し照れたように言った。




私はわかってたの。




きっと吉沢さんは“私の為”に帰らず、車に乗り込んできたって…。




でも…嬉しくて嬉しくて。こんなことは初めてで、男の人に優しくされて動揺したの。




吉沢さんは“仕事仲間”として優しくしてくれたのに私は勘違いしてしまいそうだった。




本当に“好き”になる。




そう思ったら、これ以上…吉沢さんと話せなくなった。




今日は、仕事帰り、礼に私の悩みを聞いてもらうはずだったけど、ドタキャンした。




やっぱり話せない。




礼は、前の“二次会の慎吾くん”とのことを、まだ私が怒っていると勘違いしているようだけど、そんなことはもうどうでも良かった。




私はただ…こんな自分がイヤになったの。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫