《MUMEI》
「よっ」
腕をくみ、壁にもたれ立っている蓮田。
蓮田は本当に中学生かよって位背が高くて逞しい躰をしている。
水泳部オリジナルのTシャツに短パンといったいでたちで携帯を弄っていた。
「―――――――」
俺をちらりと見ただけで携帯にしか興味が無さげな蓮田。
俺は溜め息を漏らした後、自分の机へと向かった。
――静かな、俺達しか居ない教室。
蓮田のキーを押す低い僅かな音と、俺がバッグに教科書を詰め込む少しの騒音が教室を響かせていた。
するとパコンと携帯が閉じる音がした。
「――誰も居ないと思ってたろ」
「―ああ」
「残念だったね」
全部詰め終え立ち上がると蓮田もまた俺の方に来た。
そして正面に立たれる。
「―――なんだよ…」
「今日相葉来るの知ってて待ってたんだ」
「――は」
思わず見上げると意外な位なつっこい笑顔とぶちあたった。
「――何だよもうイイだろ?正義の味方さん…」
俺は充分蓮田にやっつけられた。
親の信頼、愛情を失い、そしてダチもクモの子を散らす様に一気に失った。
俺は蓮田の脇を通り過ぎようとした…
「坂井の事…苛めてくれて有り難う」
―――――…
「――――は」
また目線が合った。
満面の笑みで
「有り難う」
と、蓮田は繰り返した。
「意味…分かんねーんだけど…」
何故だか唇が震える。
そして足元もおぼつかなくなってきた。
「――坂井は俺に助けられたお陰でもう俺から離れられなくなった、そーいった訳。
はっ、それにしても相葉は相当なガキだよな…、お陰でまあ、坂井は俺のモノ?」
「―――蓮田……」
邪悪。
―――ドス黒い。
―――俺なんかよりタチが悪いんじゃないかって……、
怖い位嬉しいそうに笑う蓮田。
教室から先に出て行こうとする蓮田に俺は話かけた。
「――蓮田は…坂井に惚れてんのか?」
「惚れてるよ?……
スッゲー惚れてる」
蓮田は扉を開け、振り返る事もなく言った。
「――お礼じゃないけどさ、中庭に坂井待たせておいた…、最後に会ってけよ」
ピシャンと扉が閉じた。
俺は暫く動けなかった。
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