《MUMEI》
幸と不幸
「…痛くない?」


「あ、うん。下駄…履くね」


私はまだ裸足のままだったので、公園の入口に置いてある下駄を拾いに行こうとした。


「違う」


「キャッ」


俊彦は軽々と私を抱き上げ、私の胸に顔を埋めた。


「…ここ、痛くない?

ごめんね。あんな事、言わせて」


俊彦が心配していたのは、私の足ではなく、…心だった。


「今は、平気。歩けるから、降ろして? 重いでしょう?」


「嫌だ」


俊彦があまりにも悲しそうな顔をしたから、私はそれ以上何も言えず、俊彦の腕の中で大人しくしていた。

「そうやって、ずっと俺の中にいればいいんだ」


俊彦は、『シューズクラブ』に向かって歩き始めた。


「でも…いいのかな?」


私の小さな小さなつぶやきを、俊彦は聞き逃さなかった。


歩きながら、『何が』と質問する俊彦に、私は躊躇いながら…


『母さん…死んだの、私の…せい、なのに。

…私ばっかり…幸せで』


と、答えた。


すると、俊彦は、立ち止まり、顔を上げた。


「…俊彦?」


私からは、俊彦の表情は見えなかった。


俊彦は、『ごめん』と言って、再び歩き始めた。

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