《MUMEI》 『シューズクラブ』の事務所に入ると、俊彦は私を椅子に座らせ、私の足の裏を見て、顔をしかめた。 「シンデレラだって、脱げたのは片足だけだったし、裸足じゃなかったと思うよ。 …残るような傷はないけど、染みるよ」 俊彦の言葉通り、足の裏についた擦り傷に消毒液が塗られる度に痛みが走った。 「後は…もっと深い傷に、消毒しないとね」 俊彦はそう言って、再び私を抱き上げると、寝室に向かった。 「と、俊彦。あの…」 「ん?」 ベッドの上に座らされた私は、まだ、迷っていた。 『姉さんの未来を奪っておいて、俊彦君と幸せになるのかい?』 …光二おじさんの言葉が、蘇ってきてしまったから。 「蝶子。俺、さっき顔上げたろ?」 「? うん」 その時、俊彦の表情がわからなくて、私は不安だった。 俊彦は、私と同じ目線にしゃがんで、意外な言葉を口にした。 「…嬉しくて、笑いそうになったんだ」 「…何で?」 亡くなった母への罪悪感で一杯の私の言葉を聞いて、何故俊彦が『嬉しい』のか、わからなかった。 「だって、それだけ、蝶子は俺といる時幸せって事だろう?」 俊彦は本当に嬉しそうだった 前へ |次へ |
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