《MUMEI》

「嘘…」


「いや、本当。少なくとも、俺より『不幸』」


そう言って、俊彦は私を真剣な表情で見つめると、私の『不幸人生』について語り始めた。


「まず、引越しばかりしてて『不幸』。

母親亡くして『不幸』。

好きな男…俺だけど、に、昔相手にされなくて『不幸』

ストーカーに襲われて『不幸』

結婚なかなか認められなくて『不幸』

変態なおじさんいて『不幸』

ほら、こんなに『不幸』だ!」


俊彦の言葉に、私はキョトンとしてしまい、何も言えなかった。


「俺は、ずっとこの商店街で生まれ育って、両親健在・変態な身内もなく、仲間に恵まれて、可愛い蝶子にも会えて『幸せ』なのに!」


「そんな事、無いでしょ」

俊彦は『無い』と言ったが、私にはわかっていた。


「俊彦、私のせいでいっぱい『不幸』だったじゃない」


私は俊彦に何度も『大嫌い』と言った。

俊彦は、私のせいで大学に進学せずホストになってしまった。

そして、私のせいで、結婚に反対されている。


「幸か不幸かは俺が決める!」


「私のは、決めたのに…」

「じゃあ、蝶子の今までは、幸せなの?」


「いろいろあったけど…不幸じゃ、ない」

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