《MUMEI》

「それは、俺と会えたからって…自惚れて、…いいんだね?」


「話、それてる…」


「だって、蝶子。顔…真っ赤」


「だから!」


俊彦が私の頬に手を添えてきたので、私は慌ててその手を振り払った。


「いいじゃん。俺が好きだから、俺を幸せにしたいから、俺を不幸にしたくないから、…一緒にいるって事にすれば。

それとも、あんなおじさんがそんなに大事?」


「それは無い!」


即答する私を、俊彦はベッドに押し倒した。


「じゃあ、問題無いじゃん。
これで、俺も、蝶子も、幸せ…だろう?」


「う…で、でも…」


「蝶子が不幸なら、亡くなったお母さんも、不幸だと、俺は思うな」


俊彦の顔が徐々に近付く。

「あの…今日は、別に、しなくても…」


「心の傷には、愛情が一番だよ」


俊彦は私の涙の跡をペロリと舐めた。


「で、でも…」


「今日の蝶子は『でも』ばっかりだね。いいんだよ。迷ってる時は、俺に流されちゃえば」


(それってどうなの?)


再び私は『でも』と言おうとしたが、俊彦に口を塞がれてしまった。


…公園では手だったが、今度は唇で。


そして、俊彦は呪文のように繰り返す。

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