《MUMEI》

「元気そうで良かったわ」

「…心配かけてすみませんでした」


ポツリと言った咲子さんにつられて、私の謝る声も小声になってしまった。


「一子さんはね、すごく落ち着いてる人だったの」


「え?」


(初めてだ)


咲子さんからは、一度も母の話を聞いた事は無かった。


…もしかすると、私の為に今まで話さなかったのかもしれない。


「当時は、信じられなかったわ。あの一子さんが、慌てていて、車を避けきれなかったなんて」


「それは、脇見運転だったから…」


「うん、でもね。一子さんなら避けきれたんじゃないのって思う位、…運動神経良かったから」


「そうなんですか…」


それなのに…母は事故に遭ってしまった。


「それだけ、親にとって、子供は大切なのよね。

…自分も親になって、初めてわかったわ」


「あの、咲子さん」


「ん?」


私は、思い切って質問した。


「もしも、…やこちゃんか、せいこちゃんが急に具合悪くなって…

学校から連絡入って、迎えに行く途中で、その…」


「『事故に遭って、死んでしまったら、子供を恨みますか?』」


私が最後まで言えなかった質問を、咲子さんが言った。

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