《MUMEI》

吉沢さんが転勤してきてから3ヶ月が経った…。




私はいつもの調子が出ず、ここ最近元気がなかった。




だって毎日、職場でドキドキするのは疲れる…。




ちゃきサンも心配してくれてるから元気出してこ。




吉沢さんが気になってるってバレたら大変だし…。




私はこの3ヶ月間で完全に吉沢さんに“惚れた”。




だって…




ミスして部長に怒られたあと、小声で“どんまい”って笑ってくれた。




苦手な取引相手と、電話で話していると必ず、“代わるよ。”と言ってくれる。




セクハラ上司とは、なるべく接しないようにしてくれる。




など、吉沢さんは優しすぎる。




その他にも、




パソコンを使う時はメガネをかける。




コーヒーはブラックだけど猫舌。




くわえタバコで配達。




など、私は吉沢さんマニア化してしまっていた…。




でも、色んなフォローや優しさは私にだけではなく、誰にでもだった…。




そこが歯痒くて、辛くなった…。




吉沢さんは格好良くて、モテモテで…既婚者。




相手にされるはずないのに…。




私の“初恋”は、やっぱり何事もなく終わってしまうんだろう…。




ただでさえ、困難な25歳の初恋。




それなのに、吉沢さんはハードルが高すぎた。




しばらくはドキドキしたり、目で追ったりしちゃうだろうけど、そのうち忘れられるだろう…。




そんな風に思っていた。




今日の仕事ももう終わり。6時になる10分前にはパソコンの電源を切って、帰る気満々だった…。




(部長)
『吉沢くん、百瀬くん、ちょっと!』




“…何だろう?もう帰る時間なのに…。”




私と吉沢さんは部長に呼ばれて応接間へ行った。




(部長)
『済まないが二人に至急の頼みがあってね…。
取引先の佐々木物産でトラブルだ。
明日までに納期する約束だったものがまだ届いていないらしい。
原因は分からないが、今すぐ持っていけば、まだ間に合うだろう。
佐々木物産までは、高速で行っても片道6時間は、かかる。
荷物の点検・積み降ろしなどもあるし…。
配達員は今、手いっぱいでなぁ…。
二人しか行けないんだ。
頼めるかね?』




“えー!今から!?嘘でしょ?”




私が呆気にとられていると吉沢さんは、




『わかりました。任せてください。』




と、二つ返事だった…。




“無理!無理!!
絶対に無理ぃ〜!
二人で片道6時間!?
なんでぇ〜?
って佐々木物産…遠っ!!ふざけんなぁ〜”




私の心の叫びも虚しく、部長と吉沢さんは打ち合わせを始めた。




って私の意見はシカトかよ…。




とりあえず、今は午後6時。一度、家に帰って午後9時に倉庫に集合して荷物の積み込みを始めるって事で話は終わった…。




“はぁ〜。気が重いよ…。行きたくないよ〜。”




なんて考えていると、後ろから肩をポンっと叩かれた。




『頑張ろうね。百瀬さん。これっ!部長から。』




吉沢さんは満面の笑みで、部長から渡された、会社のロゴ入りのつなぎとキャップを渡してきた。




『…はぁ〜。』




『じゃ〜!9時に!』




吉沢さんはイヤじゃないのかなぁ…。




とりあえず、私も家に帰ってお風呂とか入っとこ。




こうして、またも偶然に吉沢さんと二人きりになる機会が出来てしまった…。

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