《MUMEI》

人だかりが現場に集まっていくのを確認して、非常口から外に出ると、パトカーのサイレンも聞こえて来た。
葵は急いでバイクに乗ると、何事も無い様に、アパートに戻った。
裏口にバイクを停めて、部屋に向かうと、鍵が開いている。
無意識に、腰のホルスターから拳銃を抜くと、玄関のドアをゆっくり開けて、中を確認した。
そこで、背筋が凍りついた。
葵の後頭部には、拳銃が押し付けられていた。
「中に。」
低い声が、葵を指示する。
葵はゆっくり部屋に入って、次に背後の人物が、部屋に入る。
「誰ですか?」
葵の質問に、背後の人物は答えない。
そのまま部屋の灯りのスイッチを入れた所で、葵の緊張は解けた。
「仁田さんですか…。焦らせないでください。」
背後の人物、仁田と呼ばれるこの男。
葵に仕事をくれる、依頼屋だ。
「家の中に入るまで油断するな馬鹿。」
そう言いながら、葵の拳銃を取る仁田。
そのまま遠慮なく部屋に上がり、冷蔵庫から取り出した、飲みかけのコーラを一気に飲んだ。
「もう少し遠慮しましょうよ仁田さん…。」
葵の言葉を無視してソファーに座り、テレビの電源を入れる仁田を見て、静かにため息をついた。

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