《MUMEI》
はかなさ
ここしばらく千尋の顔色は悪い。何もせず窓の外を眺めてる時間が多い。
聡が病室に入ると千尋は顔を向けて笑顔を作る。
「何か必要な物、ないか?」
小さい声で千尋が呟く。
「大和の写真、ほしいな…。写メ、少ないんだもん」
「いいよ。明日持って来てやるよ。どんなのがいい?」
「お兄ちゃんに任せるよ」
うっすら微笑んで言った。
「最近、気分が良くないんだ…。何もしたくなくて。中毒症ってこんなもんなのかな。」
「ひどい人はもっとひどいらしいぞ。千尋は…中の上くらいかな。」
「じゃあんまり良くないんだ。」
「気にするな。そういう心配が余計いけないんだぞ」
「うん…」
聡は不安になった。迫り出した千尋のお腹。それと対象的に細っていく手足、顔。このまま千尋は死んでしまうんじゃないだろうか…、そんな不吉な考えすら浮かぶ。
そこへ美紀がやって来た。しかもタイミング良く大和の写真を持って。
「千尋ー。おもしろい写真見つけたから持って来ちゃったよー。見る?」
微かに頷く千尋。美紀はベッドいっぱいに写真を広げた。
「これ、文化祭で大和が女装したヤツ。かわいくない?あとはあその女装で踊ってるヤツね。」
美紀は次から次へと写真を見せる。思いがけず千尋は声をたてて笑った。
「カッコイイの全然ないじゃん。」
聡が、というか美紀も千尋の笑い声を久しぶりに聞いた。
「これ、もらってもいい?」
「そのために持って来たんだもん、いーよ、全部。」
「ありがとう」
実に嬉しそうに千尋が笑った。

翌日聡も数枚写真を持って来た。部活中の写真、授業を受けている写真、どれも千尋では手に入れられない写真ばかり。
「バカ面だけが大和じゃないんだぞ」
「知ってるよ。ありがとう」
千尋の胎児は8ヶ月のあたまに差し掛かった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫