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《MUMEI》 おぼろげ花畑が千尋の向こう側に広がっている。千尋の立っている場所は裸足の千尋が歩くには痛すぎる石ころ、暗い闇が広がっている。それに寒い。腕には赤ちゃんを抱いている。向こう側の花畑は温かく気持ち良さそう。千尋は痛いのを我慢して進んでいく。すると花畑の更に向こう側に大和の姿を見つけた。 「大和!大和!」 大和は千尋を見ている。駆け寄ろうとする千尋に大和は、 「来るな!!」 と叫んだ。 「どうして?大和、見て。赤ちゃんだよ。大和の赤ちゃんだよ。」 「その子連れて戻るんだ。まだ来ちゃダメだ。」 「どういうこと?やっと会えたのに、何でそんなこと言うの?」 「千尋も赤ん坊もまだこっち来ちゃダメなんだよ」 千尋は泣きそうな顔になる。 「私、ずっと大和に会いたかったのに。大和は違うの?」 「俺はいつだっておまえ達の傍にいるよ。」 突然赤ん坊が泣き出した。 「どうしたの?パパよ。寒いの?」 その瞬間千尋は自分が呼ばれていることに気付いた。 「及川さーん。わかる?赤ちゃん、産まれたよ。」 「産ま…れ…た?」 「そうよ。元気な男の子よ。体は小さいけど、大丈夫だから。」 妊娠8ヶ月で生まれたのだ。胎児の体重はまだ2000gに満たない。だけど比較的元気な方だ。 「赤ちゃんNICUに移すからね。一目見る?」 微かに千尋が頷く。 保育器に入った、小さな小さな我が子が動いてる。 「…勇人」 千尋が呟く。 「もう名前決まってるの?」 「この子の…パパが男の子なら…勇人にしようって…」 「じゃしばらくはやとくんとはお別れだよ。移すね」 千尋は頷いた。意識が遠くなる。 「及川さーん、眠っちゃダメよ。目を開けて。もう少し頑張って。」 「はやとくん、置いていけないでしょ。頑張って!」 処置を終えた千尋が手術室から出されてきた。 医師は「しばらく様子をみないと。まだ危険な状態ですし」 千尋は病室に移された。駆け付けた父と母、聡は余りの早急な事態にただ成す術もなく見守っていた。聡は写真の大和にそっと話しかけた。 「大和…間違っても連れてかないでくれよ。」 前へ |次へ |
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