《MUMEI》

「ハァ、ハァ、ハァ…」




足をもつれさせながらがむしゃらに中庭に直行する。







本当に坂井が居るのか分からないのに心臓がバクバクと飛びあがり、





そして―――。






「―――はあ、はあ…」






中庭のベンチに座る坂井が…いた。






夕焼けで髪が余計茶色くなり、白い肌が濃いオレンジ色に染まっている…。






人形の様に整った綺麗な顔立ち。





坂井は俺をじっと見据えている。









「蓮田が…ここに坂井が居るからって…」




「うん…」






坂井はベンチの真ん中に座っていたがすっと端に寄った。










かなりドキドキしながら隣に座った。






――人形みたいに…本当に綺麗な奴。





とても小さくて、まだ小学生でも通じそうな坂井。




声変わりもまだしていなくて…、




――下半身を脱がせた時、体毛がまだ殆どなかったっけ。





「坂井…、俺さ…」




「―――」








―――言葉に…詰まった。







だって坂井が…俺の事を怯えずに初めて普通に見つめてきたから。





思わず見とれてしまい、そして沈黙が流れた。






――時々遠くから部活の掛け声が響く。






「――蓮田が…」







坂井のピンク色の薄い唇が静かに動きだした。





「蓮田が…、忘れてあげなって言ったんだ」





「―――蓮田が……?」

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