《MUMEI》
狂乱ノ宴"後夜"
「おい、小僧。テメェ名前は?」

「僕はねぇ…緑妖死鬼だよぉ!これからお兄ちゃん達を倒すんだ、だからちゃんと名前は覚えてねぇ♪」

大人2人が目の前にいて負ける気を全く感じさせない。事実、死鬼はこの2人よりはるかに、"身体能力"だけならば全く負けていなかった。

「おーおー!いいねぇ!このガキ口だきゃあ達者だ!おい!静負!どうするよ!?」

後ろでは静負が両手を組み、目を閉じて、足を落として祈りを捧げていた。
シギの言葉を聞き目を開ける。

「やるよ。だからこその"人払い"だ。」

「おぉ?神候補がヤル気だなぁ!点数に響きますよー?」

シギがニヤニヤしながら悪戯に静負をからかった、周りにはいつの間にか静負とシギ、そして死鬼以外人が居なくなっていた。

静負は同じように、微笑みながら。

「ところでシギ?」

「あ?」

「お前あの子どうする気だ?」

「そりゃあ魔獄に叩き込むぜ?喧嘩を売った相手を思い知らせてやらぁ♪」

「それなんだが…俺にあの子預けてみないか?」

「は?」

シギが気の抜けた声を出した。その時だった。

「もう…いいよね?待つの飽きたからいくよぉ?」

瞬間、目の前に居たはずの死鬼が消える、いや、正確には低くしゃがみ、突っ込んでいた、だが速さが異常だった。

オリンピックのアスリートのような、もしくはそれ以上の速さで突っ込んでくる。慌てて2人は横に避けた。

「っと!っぶねぇ!!」

「ほんとに子供?動きはサイボーグだよね…」

「ははっ!ホントにそうだったりしてな!!」

そう言いながらシギは右手に"力"を込めた。すると手首から先が黒に近い紫の炎に包まれた。

「これはキクぜぇ!!喰らって這い蹲れやぁ!!」

シギは、また突っ込んできた死鬼にタイミングを合わせてその右手を叩き込んだ。

だが死鬼は這い蹲るどころか、仰け反りもしていない、シギが確かめようとするといきなり下から何かが上がってきた。

瞬間、その何かとシギの間に膜のような壁が出来ていた。それは直径10p程度の小さな壁だった。

「あっぶなぁ!!シギ!油断するな!!」

「悪ぃ!!」

シギは直ぐにバックステップで距離をとった。死鬼はゆっくりと2人の方に向き直ると、只一言。

「…"その程度?"」

「「っ!!?」」

2人は、特にシギは、まともに喰らえば車が吹っ飛ぶくらいの打撃を喰らって平然としている死鬼が信じられなかった、仮にも子供が、だ。

だがそれでも静負は納得ができなかった。これほどの力を持ち、使いながらやりたいことがまだ解っていない。

聞きたい、聞いてみたい。何故この少年は襲ってくるのか、何故この少年は殺気があるのに殺すような行動をとらないのか、死鬼程の力なら首を折るなど容易いはずだ。

「よっ!」

静負は死鬼に向かって手の平を向ける。ただそれだけで死鬼が止まった。

「?!?」

死鬼は不思議な顔をして、動かないか確かめている。

「ちょーっと質問させてもらうよ?いいよね?」

「答えたら動ける?」

少し心配そうに死鬼は聞いてきた。それに対し静負は微笑みながら頷いた。

「さてさて、君は何でこんな事をしたのかな?」

「僕の父さんと母さんはゆうかいはんに連れ去られたんだ、だから僕は会ったこと無いけど捜せば居るはずなんだ!」

「すげぇ…答えになってねぇ…」

シギが苦笑しながら呻くと、静負はまあまあと流した。

「えーと何で襲ったの?」

「騒ぎが起きたらゆうかいさんも気付いてくれるとおもった!」

「なにこの中途半端な知識…」

シギがまた呻くともはや静負は相手にせずに一方的に残酷で確実な一言を。

「死鬼君?君の親はもうこの世には居ないよ?」

「………え?」

信じられないといった目で静負を凝視する死鬼、それを無視するように静負は。

「だから君がどんなに探したとしても、絶対に見付からない。」

「…嘘だよね?」

「本当さ、リアルさ、現実なんだよ。」

「嘘だ。嘘だウソだウソダうそだぁぁぁぁぁぁ!!!」

瞬間、死鬼を止めていた"力"はいとも簡単に破壊された。



───暴君の誕生と運命の始まりだった───

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