《MUMEI》

「蝶子ちゃんがわざと熱を出して雨を降らせて一子さんを慌てさせて車の運転手を操ったのなら話は別だけど…
そんな超能力者じゃないでしょ!」


「でも…」


「『でも』じゃない!
子供は、親の為にも幸せになる義務があるの!

一子さんが願っていたのは蝶子ちゃんの幸せであって、不幸じゃない!

自分のせいで蝶子ちゃんが不幸になったら、一子さんはきっと悲しむわ!

それこそ、恨むわよ!

だから、蝶子ちゃんは幸せにならないといけないの!
蝶子ちゃんが不幸だと、兄さんだって、不幸だし、…私だって、衛ややこやせいこだって、商店街の皆だって悲しいんだからね!

俊彦なんかきっと不幸のどん底よ!」


『蝶子が不幸だと、俺も、皆も不幸。

俺を不幸にしないで』


咲子さんの叫び声を聞いて、私は俊彦の切ない声を思い出していた。


「だから、二度とそんな事言っちゃダメ。

…考えるのもダメ。

…わかった?」


咲子さんが私の顔を覗き込む。


私が小さく頷くと、咲子さんは『本当に?』と念を押した。


そして、咲子さんはドアを開けた。


そこには…


「父、さん…?」


(どうして、ここに?)

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