《MUMEI》

千葉にいるはずの父が立っていたので、私は驚いた。

「もう、…大丈夫よ」


咲子さんはそう言って、無言で立っている父の肩に手を置いてから、階段を降りていった。


「本当に…もう、大丈夫なのか?」


父は私に近付くのをまだ躊躇っていた。


「うん。…ねぇ、父さん。私…幸せになっても…」


『いい?』と言う前に、父が私を抱き締めた。


「いいに決まってるだろ」

「…ありがとう」


私の言葉にホッとした父だったが、急に、『あ!でも!』と大声を出して


『まだお嫁には行かないでね』


と付け加えたので、私は苦笑した。


「俊彦と一緒にいるのが、私の幸せなんだけど…」


「そ、そこは、その…『父親』と『母親』は違うんだよ。
そういう意味では、…咲子より衛君の方が、俺の気持ちはわかるだろうな」


(何で、衛さん?)


私は首を傾げた。

確かに衛さんは双子の父親だが、双子が和馬に夢中でも余裕があった。


すると、父が『今年の織姫はやこちゃんだったらしい』と説明した。


『大人組』は、祐介さんと勇さん以外相手がいるから、今年から小中高生までが、七夕饅頭イベントに参加できるようになったらしい。

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