《MUMEI》 私は家に帰ってゴハンを食べお風呂に入り、一応化粧をして渡されたつなぎを着た…。 “これじゃ本当に配達員じゃん…。” 9時前、倉庫に着いた私は遠目に吉沢さんを見つけて、その姿に驚いた…。 いつもビシッとスーツを着こなしてる吉沢さんとは、全く違った…。 つなぎの袖を腰に巻き、 Tシャツは腕まくり、 履き慣れたスニーカー、 キャップは斜めに被って、メガネをかけていた…。 “カッ…カッコいい!” 思わず、声が出た…。 女の人はスーツ姿に弱いっていうけど、それは間違ってる。 女の人は“ギャップ”に弱いんだ。 普段ビシッとしている人が、こんなラフな格好でいるとカッコよすぎだよ…。 なんかの雑誌にも“ギャップに弱い女”って特集してたけど、コレのことか〜。 私が吉沢さんに見惚れていると、 『百瀬さん。 コッチ!コッチ!』 無邪気な笑顔の吉沢さん。 “…これは完全にノックアウトだ〜。” 吉沢さんのテンションに何とかついていきながら、二人きりで倉庫から荷物を積み込む…。 外は肌寒いのに、倉庫の中はムシムシしていて、すぐに汗だくになった…。 『俺、最近運動不足だったからちょうどいいや。』 なんて言いながら、1人で段ボールを積み込んでいく。 私も負けじと、運ぶ。 『無理しなくていいよ。』 なんて言うから余計張り切ってしまった…。 『よしっ。積み込み終了!お疲れ〜。 俺、コーヒー買ってくる。30分くらい休憩しよ。』 と言って疲れも見せず、自販機まで走っていった…。 “今日の吉沢さんはいつもと違ってなんか楽しそう。こんな姿が見られるなんてラッキーだなぁ…。” すぐに戻ってきた吉沢さんは『はいっ。』と言って、私にミルクティーを買ってきてくれた。 『ありがとう。私、ミルクティー大好きなんだ。』 と言うと、また吉沢さんは無邪気な笑顔で、 『ははっ知ってる。 百瀬さんいつもミルクティー飲んでるもんね。』 と言ってきた。 “私のこと見てるんだ…。ちょっと意外だな。” なんて思いながら、顔がニヤけてしまった。 『今から6時間か〜。百瀬さん。居眠り運転防止にいっぱい話し掛けてね。』 『…うん。頑張る。』 『ははっウソ。ウソ。 寝てていいよ。疲れたでしょ?まぁ〜寝たらソッコーで降ろすけどね。 帰りはヒッチハイクだ。 大変だなぁ〜。』 『ひっど〜い!』 なんて自然に冗談を言い合えていることが幸せだった。 『そろそろ行こうか?』 『…うん。』 これから6時間。 二人きりの時間が始まる。 前へ |次へ |
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